屋根葺き替え工事は、建物の保護と快適性を維持するために重要な工事です。ですが規模の大きい工事となるため、その工事内容やメリット・デメリットについて気になる方も多いと思います。
また、施工する屋根材の種類によっても、メンテナンス時期や費用単価も変わってくるため、ご自身の屋根状況について知っておくとスムーズにリフォームの計画や工事がすすめられるでしょう。
そこでここでは、屋根葺き替え工事について「施工が必要な状況」、「費用単価」、「メリット・デメリット」などについて解説していますので、ぜひ参考にしてください。
屋根葺き替え工事とは?
屋根葺き替え工事がどんな工事か、屋根カバー工法との違いについて見ていきましょう。
屋根葺き替えはどんな工事?
屋根葺き替え工事とは「現在の屋根材を撤去して、新しい屋根材に葺き替える」工事となります。
また屋根材だけでなく、その下にある「防水シート(ルーフィング)」や下地となる「野地板」も新しく張り替えか増し張りを行ってメンテンナスしていきます。さらにその下の「垂木」などに腐食があれば、補修や補強を行うことも可能で、屋根全体のリフォームやメンテナンスを行っていく工事となります。
建物の形状や状態によっては、屋根の一部分だけを新しくする「部分的な葺き替え」を行うケースもあります。
屋根カバー工法との違い
屋根リフォームには、屋根葺き替え工事以外にも屋根カバー工法という施工方法があります。
屋根カバー工法では、屋根材は新しいものになりますが、既存の屋根材の撤去は行いません。既存の屋根はそのままの状態で、「新しい防水シート+新しい屋根」を張っていきます。
この屋根カバー工法との違いは「既存の屋根材を撤去するか・しないか」という点にあります。
屋根材を撤去しないでコストを抑えるか、屋根材を撤去して屋根を一新するか、どちらに重点を置くかによって選択基準が変わります。
屋根葺き替え工事が必要な状況は?
それなりに規模が大きくなる屋根葺き替え工事ですが、実際にどんな状況でその必要性が生まれるのでしょうか?
ここからは、屋根葺き替え工事が必要な状況について具体的にご紹介します。
築年数が長い
築年数が長い場合、そもそも屋根材の寿命を迎えている、もしくは近づいているため、葺き替え工事がおすすめです。
とくに「化粧スレート」、「セメント瓦」、「コンクリート瓦」、「トタン屋根」などは30年~40年程度の耐用年数となっています。また、下地材の「防水紙」や「野地板」の劣化も進み雨漏りリスクが高まります。
そのため、この年数が経過したら「屋根材の補修」ではなく「屋根を一新するメンテナンス」が必要です。
また、耐久性が良いとされる「粘土瓦」もその重量が年々建物に負担を与えます。築年数が長い建物は全体的に老朽化しているため、粘土瓦の重さは耐震性に影響がでます。そこで屋根を軽量の屋根材に葺き替えて建物への負担を減らすというメンテナンスも必要となるのです。
穴あきや割れがひどい
年数が経つと、金属系の屋根の場合は「錆による穴あき」、セメント系の屋根の場合は「ひび割れや剥がれ」が懸念材料となります。
この状態が深刻化すると、内部の防水紙を傷めて雨漏りリスクが高まります。
この劣化が進行すると、表面的な劣化や色褪せを改善する「塗装工事」では対応できません。屋根材もそうですが、下地まで劣化が進んでいる可能性が高いときは、屋根葺き替え工事が必要となるでしょう。
雨漏りにより下地が腐食している
屋根材の下には「防水紙、野地板、垂木」が設置されています。防水紙で雨水の侵入を最終的に防いでいますが、防水シートが破損するとそのまま内部まで雨水が入り込んでしまいます。
防水紙が破損して雨水が長期間入り込むと、下地の野地板や垂木が腐食してしまいます。そのような場合は下地の補修や補強を行う必要があるため「葺き替え工事」を行わなければなりません。
腐食した状態では新しい屋根材の取付けもできませんし、強度が下がり屋根の一部が剥がれ落ちてしまう危険性もでてくるためです。
屋根葺き替え工事の費用について
屋根葺き替え工事の費用は、一般的な住宅「30坪~50坪」で仮設足場含めて「約110万円から220万円」となるケースが多いです。
ただし、同じ屋根材と面積でも費用に差が出ることもあります。
屋根材別の費用単価
屋根葺き替え工事の基本的な費用の計算方法は「既存屋根材の処分費×施工面積」+「使用する下地材・屋根材×施工面積」となります。屋根材と施工面積がわかれば、概算で費用を出すことが可能です。
■既存屋根材の解体処分費
・粘土瓦:「3000円/㎡~」
・スレート屋根:「2800円/㎡~」
・金属屋根:「2000円/㎡~」
■新しい屋根材の費用単価
・アスファルトシングル:「7000円/㎡~」
・ガルバリウム鋼板(断熱なし):「8500円/㎡~」
・自然石粒付き鋼板:「10500円/㎡~」
■例:粘土瓦⇒アスファルトシングルへ葺き替え
作業内容 | 単価 | 施工面積 | |
粘土瓦解体処分費 | 3000円 | 80㎡ | 240000円 |
構造用合板(12mm) | 3000円 | 80㎡ | 240000円 |
防水シート | 800円 | 80㎡ | 64000円 |
アスファルトシングル | 7000円 | 80㎡ | 560000円 |
合計 | 1104000円(税別) |
※構造用合板の厚さや防水シートにも種類があり、単価が変わってきます。
屋根形状の違いによる費用差
屋根の形状には「切妻」、「寄棟」、「方形」、「入母屋」など数多くあります。
複雑な形状になるほど、使用する板金役物も増え、施工に手間がかかるため費用差が生まれます。
形状の違いで「10万円」前後の差が出ることもあります。
屋根足場の設置
屋根工事では、基本的に仮設足場が必要ですが、それ以外にも屋根勾配によって屋根足場が必要になることもあります。
安全に作業するためにも「6寸勾配」以上では屋根足場の設置が必要となります。
費用は「3.5~10万円」と大きさによって変わります。
屋根葺き替え工事の施工手順とその単価
仮設足場の設置
まず屋根工事に必要な仮設足場を設置していきます。ここでは、足場の設置と養生シートの被せが行われます。養生シートは周囲にホコリや破片の飛散を防ぐために外側に設置されます。
仮設足場設置:「12万円~」
既存屋根材の撤去、処分
今ある屋根材(粘土瓦・スレート屋根材・トタン・モ二エル瓦など)を解体して処分していきます。
粘土瓦は「桟木・葺き土」、スレート・金属屋根は「各種板金役物」も一緒に撤去していきます。下地の野地板は、状況をみて張替えか増張りかを判断して施工していきます。
屋根材の解体処分費用:「¥2000~5000円/㎡」、野地板の解体処分費用:「¥700~1000円/㎡」
木下地張り
古い野地板を解体した場合には、新しい木下地を垂木に取付け、野地板を残した場合は、その上に増張りしていきます。木下地(構造用合板)は「9mm、12mmのベニヤ」を使用して、屋根を補強していきます。
※近年は木材価格が高騰しているため、その時によって費用は大きく変動します。
木下地張り費用:「¥2500~4000円/㎡」
防水シート張り
木下地の上に、新しい防水シートをタッカーという留め具を使用して張っていきます。
この防水シートは、「ルーフィングシート」と呼ばれ、種類もたくさんあります。その費用は、耐久性や透湿性、遮熱性などのグレードによって単価が異なってきます。
防水シート張り費用:「¥600~1500円/㎡」
新規屋根材張り
防水シートの上から新しい屋根材を葺いていきます。
この屋根材も何種類かあり、「ガルバリウム鋼板」、「アスファルトシングル」、「自然石粒付鋼板」が人気商品です。一番安い屋根材は、波トタンとなります。
また、軽量瓦などを葺く場合には「桟木」という下地材の取付けを行うため別途費用が掛かってきます。
新規屋根材張り費用:「¥6000~15000円/㎡」
各種役物の取付け
新規屋根材を張る工程の前後で、新しい役物の取付けも行っています。役物は「軒先や端部のケラバ、谷部分、天窓など」屋根の見切り部分に役物を取付けます。
また、仕上げに「棟板金、雨押えなど」屋根材にはさまざまな役物が必要です。
これは、屋根の形状によって使用する部材や長さが異なり複雑な形状なほど費用も変わってきます。
軒先・ケラバ・谷役物新設:「¥2000~3500円/m」
棟板金・雨押え板金新設:「¥3500~5000円/m」
換気棟新設:「¥25000~50000円/箇所」
天窓板金新設:「¥20000~35000円/箇所」
⇒屋根工事が完了したら足場を解体していきます。
屋根葺き替え工事のメリット・デメリット
屋根葺き替え工事のメリットを見ていきましょう。
メリット
屋根の素材によっては耐震性が上がる
昔ながらの瓦屋根は「約40kg/㎡」と、その重量が地震発生時にとてもリスクとなっています。
大規模な地震で倒壊した建物の屋根材は「粘土瓦」がほとんどです。建物は年々、老朽化するのに対して、屋根の重さは変わらないので、負担だけが増えてしまっています。
そこで、既存の屋根材が「粘土瓦やセメント瓦」の場合、「軽量な屋根材」に葺き替えることによって「重さを最大1/10」にまで軽減させることができ、地震対策となります。
新しい屋根材を軽い素材に変更すれば、家への負荷が減り、揺れづらく、耐震性の向上が期待できます。
家の見た目を変えることができる
屋根の葺き替え工事は、外観の雰囲気を生まれ変わらせるという魅力があります。
屋根塗装や外壁塗装をして色を塗り替えるだけでもお住まいの外観の印象を変えることはできます。ただ、屋根の葺き替え工事で屋根材を新しくすれば、色だけでなく、デザインや素材も変更できるので、一層イメージチェンジが可能です。
家を建ててからある程度の時間が経過すると、同じ外観に少々飽きる方もいるかもしれません。屋根材の寿命がやってきた頃であれば、家の見た目を変えられる葺き替えを検討してみてもいいでしょう。
下地の交換ができる
屋根葺き替え工事には、「下地も新しくできる」というメリットがあります。
屋根リフォームには、塗装工事やカバー工法がありますが、どちらも屋根材の内部を確認せずに施工を行います。そのため、内部の下地が傷んでいても基本はそのままとなってしまいます。
ですが、き替え工事では「屋根材だけ」でなく、その下にある「野地板や垂木」などの下地まで新しくできます。
「屋根材の劣化が目立ってきた」という状況でも、その内部まではわかりません。葺き替え工事では、屋根材の撤去をすることで、内部の状況も確認でき、状況によってその修繕に対応できる点は今後の安心感につながります。
デメリット
近隣トラブルのリスク
屋根葺き替え工事は、屋根リフォームのなかでも大がかりな工事となり、工事の進め方や周囲への配慮によっては近隣トラブルのリスクがあります。
施工中の砂埃や騒音、廃材などの問題が絡むため、葺き替え工事は近所から苦情を言われるケースもあります。通常は、足場とともに保護用ネットが設置されて飛散防止対策が行われますが、強い風が吹くと砂埃・廃材(腐食した木材など)が近隣へ飛んでしまうリスクはゼロにはなりません。
ただ、あらゆる可能性を踏まえて適切な対策をすること、そして近隣住民へ工事前に挨拶をしておくなどで、トラブルを防ぐことができます。
コストがかかる
屋根の葺き替え工事は、塗装工事や屋根カバー工事と比べてコストがかかる点がデメリットとなります。
既存の屋根材を処分する「処分費」がかかり、その屋根材を解体するという「解体・運搬作業費」のコストが生まれます。
また、屋根材を解体するため、下地材「構造用合板」の新規張り上げは確実に行う必要があり、その「材料代・施工費」もプラスでかかります。近年では、木材の価格も値上がりしており、さらにコスト高に拍車がかかっています。
また、既存屋根に「アスベスト材」が含まれていた場合、さらに処分費用も高くつきます。アスベスト材の解体では、飛散防止対策や近隣への対応もしっかりと行う必要があり、状況によって管理費もかかるケースがあります。
屋根葺き替え工事でおすすめの屋根材
屋根葺き替え工事で使用する新しい屋根材には種類があります。そこで、葺き替え工事でおすすめできる屋根材をご紹介していきます。
ガルバリウム鋼板
ガルバリウム鋼板は金属屋根のひとつですが、昔のトタン屋根とは違うメリットから、屋根葺き替え工事でよく選ばれている屋根材です。特に、注目したいのは「錆びにくさ」です。アルミニウムや亜鉛などでメッキされているガルバリウム鋼板には錆を防ぐ性質もあり、耐用年数が長いのも特徴です。
また、瓦屋根と比べて「1/10以下」の重さになるガルバリウム鋼板に葺き替えると、屋根の軽量化ができ、建物への負担が軽減します。結果的に寿命を延ばすことにつながります。
自然石粒付き鋼板
近年注目度が高まっているのが自然石粒付鋼板の屋根材です。ジンカリウム鋼板という金属屋根の表面に「石粒」をコーティングした海外生まれの屋根材です。意匠性の高さや「遮熱性、遮音性」に優れています。ガルバリウム鋼板と同じように「軽量」というのも葺き替え工事でおすすめできる理由のひとつです。
また、石が表面を覆っているので、金属屋根でありながら「錆びにくい」という特徴もあります。ほかの金属屋根と違って塗装が不要なので、今後のメンテナンス費用もおさえられます。
アスファルトシングル
「アスファルト」と「ガラス繊維」を主成分にし、「石粒」を表面に付着させた屋根材がアスファルトシングルです。アメリカやカナダなどでは、シェア8割以上をほこる人気の屋根材です。石粒が持つ暖かみにより、葺き替え工事の際に新しい屋根材にすると、洋風でおしゃれな雰囲気にもできます。
シート状の屋根材で施工性が高いうえ、軽量なので耐震性を高めることも可能です。葺き替え工事で耐震性をアップさせたいときにもおすすめできる屋根材です。
屋根葺き替え工事をするときに注意する点は?
屋根葺き替え工事は、家の耐久性や安全性を維持する上で必要な工事です。適切なタイミングで屋根葺き替え工事をすることで、大切なお住まいを守ることにつながります。
次に、葺き替え工事を行う際に注意したいポイントを詳しく解説します。
依頼する業者選びを慎重に行う
屋根工事は、専門的な知識と豊富な経験が求められます。施工する業者によって施工レベルが変わり、仕上がりに影響がでるため、どこの業者に依頼するのがも重要となってきます。
同じ工事を頼んだとしても、経験値が少ない業者への依頼をした場合、品質の低さにより数年後に不具合が生じるケースもあります。葺き替え直後は快適に思えても、数年という短い期間で雨漏りが生じて再び大きな工事が必要となっては元も子もありません。
業者選びでは、提示された価格だけでなく、施工業者の過去の施工実績や見積り内容等をきちんと確認して信頼性のある業者を選ぶことが大事です。
新しい屋根材を比較して検討する
新しく使用する屋根材には「粘土瓦」、「軽量瓦」、「金属屋根材(縦葺き・横葺き)」、「スレート屋根材」、「シングル屋根材」、「自然石粒付き鋼板」など数多くあります。
それぞれ、施工後の美観はもちろんですが、「耐用年数」、「機能面」、「メンテナンスコスト」、「重さ」、「材料費」が変わってきます。
施工する建物の状況によって、ベストな屋根材は変わりますし、将来的なメンテナンスコストを抑えるのか、導入コストを抑えるのか、見た目重視なのかで、屋根材の選定は変わってくるでしょう。
施工後に後悔しないためにも、新しく使用する屋根材はしっかりと施工前に比較検討しておくことが大事です。
火災保険が利用できるかの確認
屋根葺き替え工事を行う際に、火災保険を利用できればその費用を抑えて工事が行えます。
適用の条件は、自然災害による影響で屋根に被害が起き、その修理に屋根葺き替え工事を行う必要がある場合に限り「火災保険が適用」されます。
ただ、その災害から「2~3年以内の申し込み」に限られます。(保険会社により異なる)
もし対象の範囲であれば、屋根葺き替え工事の費用を少しでも抑えることができますので、一度保険会社に適用されるかどうかご確認してみましょう。
最後に
屋根葺き替え工事は、今ある屋根材を撤去して、新しい屋根材に葺き替える工事です。
その費用は「屋根材の種類」や「屋根の形状」、「屋根勾配」、「足場の面積」によって変わってきます。正確な費用を出すためには、現地調査を行う必要があります。
また、屋根葺き替え工事にはメリット・デメリットがありますので、しっかりと把握してご検討ください。
そのほか、業者選びや屋根材の選定、火災保険の確認も重要となります。
屋根葺き替え工事は規模が大きな工事となりますので、しっかりと比較検討を行い工事を進めていきましょう。
屋根葺き替え工事NAVI