塗装がいらず耐久性の高いと言われる瓦屋根ですが、実は定期的な点検やメンテナンスは必要となります。特に注意したいのが屋根のてっぺんにある「棟瓦(むねがわら)」です。
瓦屋根の棟は屋根の最も高いところにあるため不具合が起こりやすく、劣化状況によっては「棟瓦積み直し」をしなければなりません。
棟瓦の劣化は放置するほどに自然災害時による影響が悪化するので、早めの段階で対応することが大事です。
ここでは、そんな棟瓦の積み直し工事が必要なケースや施工手順、各種積み方の費用について詳しくお伝えしていきます。
棟瓦積み直しとは?
まずは、棟瓦について、特徴や役割を見ていきましょう。
棟瓦とはどんな役割がある?
屋根の頂点のところを「棟(むね)」と言い、そこに水平に並べられた瓦が棟瓦です。屋根の面同士が三角形で合わさる棟には隙間ができるため、それを塞ぐように棟瓦を設置します。
この棟瓦はてっぺんから内部に雨水が入り込むのを防ぐ役割があり、「雨漏り防止」の重要な役割があります。
また、棟瓦には「美観の向上」という役割もあります。
最も上に積まれた棟瓦は、瓦屋根をさらに美しく仕上げる部分。綺麗に真っすぐ並べられることで風格も漂う屋根になります。
棟瓦積み直しとは?
棟瓦に劣化やダメージが起こると、雨水が入り込み倒壊のリスクや見た目も悪くなります。
そこで、既存の瓦屋根の棟部分を一度解体し、新しくまた瓦を積み直してメンテナンスを行っていくことを「棟瓦の積み直し工事」と言います。
積み直しを行うことで棟瓦の「耐久性」、「美観」を元に戻します。
棟瓦の劣化と各種積み直しの施工手順について
棟瓦の積み方には種類があり、主に「湿式工法」と「乾式工法」に分かれます。また、「和瓦」、「洋瓦」によっても積み方が異なります。
ここでは、それぞれの積み方の特徴や積み直しの施工手順についてご紹介します。
湿式工法
湿式工法は、粘土や泥などの水分の含んだ「葺き土や南蛮漆喰」を使った施工方法となります。
この工法は、棟瓦を高く積み上げて仕上げる伝統的な和風建築によく採用されています。この積み方は「大回し工法」とも呼ばれています。
また、「丸瓦」や「三角瓦」を一本だけのせて仕上げる「冠瓦一本伏せ」という工法も洋瓦などでよく施工されています。
湿式工法のデメリットは、水分により重量が増し、建物の負担になる側面があります。
大回し工法
従来から施工されている旧工法となります。
■不具合や劣化症状
土台となる葺き土や漆喰が経年劣化すると固定力が弱まり、瓦が徐々に動きずれが生じて棟瓦が歪んできます。
そのような状態になると台風や地震で状況がさらに悪化して「棟瓦の崩れ」、そして「崩れた棟瓦の破損や割れ」などにつながります。また、仕上げに巻いている「緊結線」は何十年もすれば劣化するうえ、強風や地震などで「緩み・切れ」が起こることもあります。
■施工手順
①既存棟瓦の解体
②新しい鬼瓦を銅線で固定する
③南蛮漆喰をつめていく
④のし瓦・冠瓦を再び並べて積み直す
⑤銅線を巻いて固定する
冠瓦一本伏せ工法
下地に芯材を取付け、その芯材に冠瓦を釘やビスで固定する工法です。
■不具合や劣化症状
この工法の場合は、経年で釘浮きが発生します。釘の浮きにより隙間が発生すると雨水が入りこみ下地が木材の場合は「腐食して冠瓦が剥がれ」てしまう原因となります。
新しく積み直す場合は、腐食しない樹脂製の下地の使用が推奨されます。
■施工手順
①既存棟瓦の解体
②補強用の金物・芯材を取り付ける
③南蛮漆喰をつめていく
④冠瓦を再び並べて積み直す
⑤冠瓦を芯材にビスや銅線で固定する
乾式工法
乾式工法は、水分を必要とする「葺き土や漆喰」を使わずに仕上げる工法です。
湿式工法の「重い」というデメリットを緩和できるのが「乾式工法」で、最近選ばれるようになってきました。
「固定金具」と「下地木材や樹脂」で土台をつくり、防水のための「面戸シート」を施工、冠瓦を芯材に固定していく方法です。乾式工法は湿式と比べてはるかに軽量化できるため、耐震性もアップ、地震時の負担も緩和できます。
■不具合や劣化症状
漆喰等を使用しないため、下地に木材を使わなければ長期間メンテナンス不要となります。
■施工手順
①既存棟瓦の解体
②補強用の金物・芯材を取り付ける
③乾式面戸を設置する
④棟瓦を再び並べて積み直す
⑤丸瓦を芯材にビスで固定する
ガイドライン工法とは?
ガイドライン工法は、1994年の阪神大震災により住宅の崩壊や、屋根材が落下したことなどを受け、地震・台風時の屋根材の落下を防ぐための施工基準です。
2001年に瓦業界で定められたガイドライン工法をベースとし、2022年の法律の改正により「すべての瓦を固定する」という強固な瓦屋根の施工が義務化されました。
棟瓦もその中の対象となります。
・棟部分は、芯材と冠瓦をビスで固定し、内部に補強金物、のし瓦を緊結線で結ぶ
ガイドドライン工法は、湿式・乾式問わず、冠瓦を「芯材にビス固定」、のし瓦を「緊結線固定」することで長期的に強度を保つ、地震対策として改良されています。
ただ、このガイドライン工法は、新築、もしくは増改築など新しく施工するケースが対象となっています。
リフォームで既存の瓦屋根の積み直しをする場合などは、旧工法でやるか、それともガイドライン工法でやるかは選択が可能です。
コストが高いことからガイドライン工法を採用しないというケースもあります。しかし、地震時や強風時のリスクをカバーするため、より強固に施工できるガイドライン工法は、万が一のリスクに対しての安心できるメリットがあります。
棟瓦積み直し工事の費用単価について
棟瓦積み直しの各種費用単価
■湿式工法
大回し工法:「15000円/㎡~」
冠瓦一本伏せ工法:「13000円/㎡~」
ガイドライン施工:「18000円/㎡~」
■乾式工法
面戸シート施工:「12000円/㎡~」
※棟瓦積み直し工事は、「屋根勾配」や「のし瓦の枚数」、「施工環境」などによっても費用が変わってきます。
15000円×20m=300000円(税別) といったような計算方法となります。
その他でかかる費用
上記以外に「既存棟瓦の残土、漆喰や心木」などの処分費、と管理費用なども別途かかります。
処分費:「2.5万円~」、管理費用:「約3万円~」くらいとなります。
管理費用には近隣対応も含まれます。積み直し工事は、砂ぼこりが飛散しやすいため、近隣への配慮(挨拶や対応)がとても重要となります。
そのほか、足場代がかかります。
足場代は30坪程度建物で「12万円~」くらいとなります。
棟瓦の傷みを放置してはいけない理由とは
棟瓦が傷んでいると分かっていても、「どこに依頼しようか」「とりあえず様子を見よう」と放置するケースもあるでしょう。しかし、棟瓦が傷んでいるなら早めに対処することが大事です。その理由を見ていきましょう。
台風や強風時に被害が起こりやすくなる
本来、棟瓦はしっかり固定されている部分です。歪みや破損、銅線の切れが原因で固定力が低下したタイミングで台風などの強い風の刺激を受ければ、崩落といった被害が起こる可能性が非常に高くなります。
実際に過去の台風の影響で棟瓦の倒壊が相次ぎました。台風が起きてから修理を行うと、他の家も同じ状況になっているため、すぐに修理できません。また被害件数が多く養生にも行けない状況でした。
また、落下した棟瓦が自動車や隣家を直撃、場合によっては人間にぶつかっていくかもしれません。ケガなどの二次被害が起こってはかなり危険です。お住まいの被害だけでなく、周囲の人を危険にさらす状況なので、早めの修理がおすすめです。
雨漏りが起こる
棟瓦が崩れると内部に雨水が入り込んでしまいます。
瓦の下には2次防水の「防水シート」が施工されているためすぐに雨漏り発生しませんが、入り続けるとそのリスクは高まります。
とくに瓦屋根は重さもあり、瓦が葺かれているお宅は築年数が経過しているお宅も多いかと思います。
防水シートの劣化が進んでいるケースも多く、雨漏りが通常よりも発生しやすいため、このようなことから棟瓦の劣化はあまり放置しない方が良いでしょう。
火災保険が使える可能性は?
棟瓦の積み直しで火災保険が使えるのは、「台風や竜巻、地震」など、自然災害によって棟瓦の破損や割れ、崩壊などが起こった場合です。
火災保険が使えれば、コストをおさえて補修ができるので、条件が合えば申請しましょう。
ただ、火災保険に加入しているからといって、必ずしも補償が受けられるとは限りません。ご自身の保険契約の内容をチェックし、風災が対象外であれば、使えません。
最後に
昔と比べると屋根材の種類も増えてきました。そんななか、重厚な雰囲気を持つ瓦屋根の住まいを見ると、独特の美しさや風格ある佇まいに魅力を感じます。
ただ、今回お伝えしたように、棟瓦は経年の劣化で歪みや曲がり、破損が起こることがあります。
「棟瓦が歪んだ感じがする」「一箇所だけ破損しているところが見える」など、棟瓦の積み直しが必要な可能性が高いです。特に、年数とともに固定力が弱くなった棟瓦に地震・台風の負荷がかかると、もっと状況がひどくなることもあります。
「どこに依頼しよう」と決めかねて修理せずにいると雨漏りの発生や、被害の拡大のリスクも考えられます。
気になったときは放置せず、なるべく早めに点検の依頼をすることをおすすめします。
棟瓦積み直し工事NAVI